かさの読み札

今回紹介する和歌はこちら!

 

かささぎの渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞふけにける

 

初句から出てくる「かささぎ」ということばが一番目立ち、なおかつこの和歌で重要な意味を持っています。

かささぎの黒、霜の白、そして最後に夜の黒、という白黒のコントラストも美しいですね。

和歌の意味

かささぎが渡した橋に降りている霜が白いのを見ていると夜がふけてしまったなぁ

 

「かささぎが渡した橋」というのが少し難解ですが、全体の意味的にはそこまで難しいところはないです。

とはいっても、夜がふけるまで霜を見ていた理由なんかは、妄想の余地が多分に含まれていますね。

ここからの解説では、夜まで霜を見ていた理由よりは、「かささぎの橋」についての考察がメインとなります。

ことばの解説

続いて、この和歌に使われていることばの解説です。

かささぎ

かささぎとはカラス科の鳥で、カラスより少し小さく尾が長い黒い鳥です。

文字で説明するよりは画像を見たほうが早いので、下の画像をご覧ください。

かささぎの画像

 

全体的に黒い鳥ですが、羽根の先や胸の部分が白くなっているのが特徴です。

 

ちなみに、このかささぎという鳥、当時の日本にはまだ生息しておらず、だれも見たことがない伝説上の鳥だったそうです。

そのため、万葉集どころか古今和歌集の時代になっても、「かささぎ」という言葉を使った和歌は存在しません。

この事実は、この和歌を鑑賞するうえで重要なポイントです。

置く

次に紹介するのは、「置く」という単語です。

ここでは、露や霜が降りることを意味します。

 

一応、現代語の辞書で「置く」を調べてみたところ、最後の方にこの意味も紹介されていました。

現代で露や霜に触れることはほぼないので、使う機会はほぼありませんが…

 

ちなみに、百人一首の中で、この和歌と同じ意味で「置く」という言葉を使っている和歌に下記の歌があります。

心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花

 

ここでも、霜が降りることを「置く」という言葉で表現しています。

このように、よくセットで使われる言葉同士を、和歌の世界では「縁語」と言ったりします。

文法解説

続いて、この和歌に使われている文法の解説です。

ポイント1.渡せる

文法解説1つ目は「渡せる」です。

この文を文節で区切ると、「渡せ/る」になります。

 

「渡せ」はサ行四段活用「渡す」の已然形です。

現代語でも「橋を渡す」という意味で使われることがありますね。

 

ポイントは次の「る」です。

この「る」は、完了・存続を意味する助動詞「り」の連体形です。

ここでは完了の意味で「渡した」となります。

 

(ここからマニアックな文法の話)

普通助動詞は、助動詞ごとに前につく動詞の活用形が決まっています(過去の助動詞「けり」は連用形の後など)。

しかし、この完了・存続の助動詞「り」は、活用形というよりはエ行の音の後につく、という点で少し特殊な助動詞となっています。

具体的にいうと、サ行変格活用の未然形、四段活用の已然形、の後につく助動詞です。

 

直感的に言うと、エ行で終わる動詞の後についている「ら、り、る、れ」はだいたいこの助動詞です。

古文では頻繁に出てくる助動詞なので、受験生はぜひ覚えておきましょう。

(マニアックな話おわり)

 

完了・存続の「り」が使われている和歌には、他にも以下のような歌があります。

心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花

朝ぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里に降れる白雪

ポイント2.見れば

文法解説2つ目は「見れば」です。

現代語訳は「見てみると」という、順接の意味になります。

「見てみたら」という仮定の意味ではないので、注意が必要です。

 

この「見れば」というのは、受験の古文でよく問われる、已然形+ば、という形です。

仮定の意味を持たせたいときは、未然形+ば、の形にする必要があります。

今回の「見る」であれば、未然形は「見」なので、「見ば」が仮定の形です。

 

百人一首の中で、他に已然形+ば、が使われている和歌には以下のようなものがあります。

天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも

わびわびぬれば今はた同じ難波なるみをつくしてもあはむとぞ思ふ

ポイント3.~ぞ・・・ける

文法解説3つ目は「夜ぞふけにける」の「~ぞ・・・ける」の部分です。

これはいわゆる係り結びの法則と呼ばれるものです。

 

係り結びの法則とは、ある特定の助詞が文中に出てきた場合、その文末が連体形、もしくは已然形に変化する、という法則です。

今回で言えば、文中の「ぞ」がトリガーとなって、文末の過去を意味する「けり」が連体形である「ける」に変わっています。

 

「ぞ」が強調を意味するだけなので、現代語訳としては無視してもいいレベルです。

ただ、文末が終止形にならない特徴的な文になるため、受験などではよく問われる分野となります。

また、文中の助詞が「か」や「や」だと疑問の意味が付与されますので、注意が必要です。

 

他に係り結びの法則が使われている和歌には、以下のようなものがあります。

わが庵は都のたつみしかぞ住む世をうぢ山と人はいふなり

筑波嶺の峰よりおつるみなの川恋ぞつもりて淵となりぬる

作者

作者は中納言家持こと、大伴家持です。

 

大伴家は元々武人の家系だったようですが、家持の父、大伴旅人は風流を好み、山上憶良という歌人とも親しかったようです。

その父の影響もあってか、家持自体も多く歌を詠み、結果的に『万葉集』に一番多く作品が載せられている歌人にもなっています。

また、『万葉集』に自身の歌が多く載っていることから、『万葉集』の編纂に何らかの形で関与していたとも言われています。

 

家持の官位は中納言となっていますが、百人一首には作者名に中納言の官位が付されている人物が全部で4人います。

他に中納言の作者が詠んだ歌としては、以下のようなものがあります

 

立ち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かば今帰り来む(中納言行平)

みかの原わきて流るるいづみ川いつ見きとてか恋しかるらむ(中納言兼輔)

鑑賞

ここからは和歌をさらに楽しむための、背景知識などを紹介します。

作者は別人である

この和歌は『家持集』に入っていることから、百人一首では家持作とされています。

しかし実際は、この和歌は家持の作品ではない、とするのが一般的です。

 

というのも、この和歌は家持が生きていた時代の『万葉集』に載っていた和歌ではないからです。

先述した通り、万葉集や古今和歌集にかささぎという言葉を使った和歌は存在していません。

なので当然、万葉集時代の歌人である家持が、かささぎを主題とした和歌を詠んだとは考えにくいのです。

 

また、家持作の根拠とされる『家持集』は、この歌も含め、家持作以外の和歌も多く載せられていたようです。

あしびきの歌(3番歌)と言い、おくやまの歌(5番歌)と言い、この時代の私家集には別の作者の歌が平気で載っていますね。

参照:あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む

参照:奥山にもみじ踏み分け鳴く鹿の声聞く時ぞ秋は悲しき

かささぎと七夕伝説

かささぎという鳥は、七夕伝説と大きなかかわりを持っています。

 

そもそも七夕とは、中国から伝わった伝説です。

中国の七夕では、1年に1回、織女(日本で言う織姫)が牽牛(日本で言う彦星)に会いに行く、という物語です。

そのとき、天の川を超える必要があるのですが、その橋となるのがかささぎという鳥なのです。

 

つまり、「かささぎの橋」と言われたときに、七夕伝説を知っている人が聞くと、「織女が牽牛に会いに行くために渡るかささぎが作った橋のことね」となるわけです。

こう解釈することで、かささぎの橋に置く霜=かささぎの体の白い部分、という解釈も可能になります。

 

ところが、この歌を七夕伝説になぞらえたかささぎの歌と解釈すると、少し不都合なところが出てきます。

それは、季節感です。

 

皆さんがご存知のように、七夕は夏の行事です。

これは伝来元の中国でも変わりません。

しかし、この和歌では橋に霜が降りる季節、すなわち冬の歌として詠まれています。

現に、出典元の新古今和歌集でも冬の部立てに配置されています。

 

冬に霜の降りた橋を見て、夏のかささぎの橋を思いつくというのは、少し飛躍しすぎというか脈絡がなさすぎるように思えてしまうのです。

なので、ここでいう橋とは、宮中にかかる階(きざはし=かいだん)のことであり、階に降りた霜についての歌だとする説もあります。

もしくは、日本では冬の天の川が和歌的には好まれており、それを象徴するためにかささぎの橋という言葉が使われているだけ、と考える説もあります。

 

ちなみに、大阪の枚方市には天野川という川が流れているですが、その天野川にかかっている橋の名前が「かささぎ橋」なんですよね。

これを初めて見つけたときは、ちょっと感動しました。

競技かるたにおける「かさ」

最後に、競技かるたにおける「かさ」についてです。

 

競技かるたでは、この和歌を「かさ」まで聞くことで取ることができます。

下の句が「しろ」から始まるので、「白い傘」なんていう語呂合わせで簡単に覚えられます。

ちなみに私は、この覚え方のせいでかささぎという鳥は白いもんだと勝手に思い込んでいました。

 

百人一首の中で「か」から始まる歌は、この歌も含めて全部で4首あります。

そのうち、この歌と同様、かの次の音を聞くことで確定できる歌に「かく」という札があります

かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを

 

残りの「か」から始まる歌は、どちらも「かぜ」まで共通なので、3文字目を聞き分けてとる3字決まりの札になっています。

風をいたみ岩打つ波のおのれのみくだけてものを思ふころかな

風そよぐならの小川の夕暮れはみそぎぞ夏のしるしなりける

出典

新古今和歌集・冬・620

参考文献

吉海直人『読んで楽しむ百人一首』KADOKAWA(2017)

吉海直人 監修『こんなに面白かった「百人一首」』PHP文庫(2010)

井上宗雄『百人一首を楽しく読む 四版』笠間書院(2014)

有吉保 監修『知識ゼロからの百人一首入門』幻冬舎(2005)

馬場あき子『馬場あき子「百人一首」』NHK出版(2016)

上坂信男『新版 百人一首・耽美の空間』右文書院(2008)

小名木善行『ねずさんの日本の心で読み解く「百人一首」』彩雲出版(2015)

田中紀峰『虚構の歌人藤原定家』夏目書房新社(2015)